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Channel: 桃象の観劇書付
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劇団花吹雪+藤乃かな お梶藤十郎 ②

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幕は 京都 四条の芝居茶屋「宗清」の 奥座敷から
はじまりました。

奥座敷には、人の気勢もないなか、藤十郎は、脇息を枕にして
身を横にしていた。
母屋の方から、とんとんと離座敷を指して来る人の足音が、
聞えて来た。   

近づいて来る足音の主は、此処に藤十郎が居ようなどとは、
夢にも気付かないらしく、足早に長い廊下を通り抜けて、
この部屋に近づくままに、女性らしい衣ずれ の音をさせたかと
思うと、会釈もなく部屋の障子を押し開いた。

が、其処に横たわっていた藤十郎の姿を見ると、

吃驚して敷居際に
立ち疎んでしまった。

 

「あれ、藤様はここにおわしたのか。

これはこれはいかい粗相を」と、云いながら、
女は直ぐ 障子を閉ざして、去ろうとしたが、
又立ち直って、「ほんに、このように冷える処で、

そうして御座って、御風邪など召
すとわるい。どれ、私が夜のものをかけ て進ぜましょう」と、

云いながら、
部屋の片隅の押入から、夜具を取り下ろそうとしている。 

藤十郎は、最初足音を聞いた時、召使の者であろうと思ったので、
彼は寝そべったまま、起き直ろうとはしなかった。

が、それが意外にも、宗清の主人宗山清兵衛 の女房お梶であると
知ると、彼は起き上って、一寸居ずまいを正しながら、
「いやこれは、いかい御雑作じゃのう」と、会釈をした。

お梶は 藤十郎に 弥生に行う 新作狂言の話を振ると、それには答えず

「お梶どの、ちと話したいことが・・」
「何ぞ、外に御用があってか」と、お梶は無邪気に、振り返った。

「ちと、御意を得たいことがある程に、坐ってたもらぬか」
こう云いながら、藤十郎は、心持ち女の方へ膝をすすませた。 

「改まって何の用ぞいのうおほほほ」と、何気なく笑いながらも、
稍面映ゆげに藤十郎の顔を打ち仰いだ。

藤十郎の声音は、今までとは打って変って、低いけれども、
然しながら力強い響を持っていた。 

「お 梶どの。別儀ではござらぬが、この藤十郎は、
そなたに二十年来隠していた事がある。それを今宵は是非にも、
聴いて貰いたいのじゃ。

思い出せば、古いこと じゃが、そなたが十六で、われらが二十の
秋じゃったが、祇園祭の折に、河原の掛小屋で二人一緒に、
連舞を舞うたことを、よもや忘れはしやるまいなあ。

われらが、そなたを見たのは、あの時が初めてじゃ。
宮川町のお梶どのと云えば、いかに美しい若女形でも、
足下にも及ぶまいと、兼々人の噂に聴いていたが、
そなたの美しきがよもあれ程であろうとは、
夢にも思い及ばなかったのじゃ」と、

こう云いながら、藤十郎はその大きい眼を半眼に閉じながら、
美しかった青春の夢 を、うっとりと追うているような眼付をするのであった。   

こうやって 藤十郎は 恋を打ち明ける

「人妻になったそなたを恋い慕うのは人間のする事ではないと、
心で強う制統しても、止まらぬは凡夫の想じゃ。
そなたの噂を聴くにつけ、面影を見るにつけ、二十年のその間、
そなたの事を忘れた日は、ただ一日もおじゃらぬわ」

「が、 この藤十郎も、人妻に恋をしかけるような非道な事は、
なすまじいと、明暮燃え熾る心をじっと抑えて来たのじゃが、
われらも今年四十五じゃ、人間の定命はも う近い。

これ程の恋を――二十年来偲びに偲んだこれ程の想を、
この世で一言も打ち明けいで、何時の世誰にか語るべきと、
思うに付けでも、物狂わしゅうなる までに、心が擾れ申して、
かくの有様じゃ。のう、お梶どの、藤十郎をあわれと思召さば、
たった一言情ある言葉を、なあ……」
 
「そんな、てんごを言うて」 

「何の、てんごを云うてなるものか、
人妻に云い寄るからは、命を投げ出しての恋じゃ」

 

「「藤様、今仰った事は、皆本心かいな」

 
必死の覚悟を定めたらしいお梶は、火のような瞳で、
男の顔を一目見ると、いきなり傍の絹行燈の灯を、
フッと吹き消してしまった。 



ここで  序幕の幕が閉まります。
この 幕のしめ方が ものすごいのですよ。

言い寄って 灯りを消して つまり お梶も
その気になって


その後 藤十郎とお梶は
一線を越えたのか 越えてないのか
その判断は 観客にゆだねられます

 


藤十郎の恋」は、芝居の芸談を集めた江戸時代の
耳塵集にじんしゅう」という書物に、

 

「坂田藤十郎が役の工夫の為に、茶屋の女主人に恋を仕掛け、

なびくとみせて、逃げ去った」と、
記載されているのをヒントに 
菊池寛が創作したとされている。

 

しかしながら、そもそも 耳塵集に 書かれている「逃げ去った」
ことが 真実であるとは限らないのでございます。

なぜならば もし そこで 
「茶屋の女主人に恋を仕掛けた」
とのみ
記載があれば 

封建制度の下の不義密通は天下の御法度 

藤十郎は自害せねばなりません。そんなことを あからさまに
書くわけがないのでございます。
したがって 『「逃げ去った」ことにしておく』ということも
充分あり得る話なんですね
逆に言うと 藤十郎の不義密通の噂が広がっていたからこそ
それを 打ち消すための記載であるとも考えられる

菊池寛も そう考えたかもしれないが
菊池寛の時代は まだ 大正時代 残念ながら 
日本は自由主義国家ではなかった

『逃げ去った』ことが 実は虚構であったと 現代なら言えるし、
むしろ そう考える方が 自然ではないのか
とも 考えられます

 

 

実は実は、、この「藤十郎の恋」

 

「何の、てんごを云うてなるものか、
人妻に云い寄るからは、命を投げ出しての恋じゃ」

 

の部分など そもそもの菊池寛の原作や 台本には 

 

「何の、てんごうを云うてなるものか、
人妻に云い寄るからは、命を投げ出しての恋じゃ」

 

と 記載されていまして

以前は 藤乃かな 台本通り

てんごう

と言ってたのです。

 

ところが・・・

 

今回、藤乃かな・・・

気合入れました。

 

おそらく 桃象の推測ですが

相手役の春之丞座長 は 大阪出身の方 

副座長もそうだし 関西弁がナチュラルな方多数。

そのためも あったと思います

 

てんご に代表されるように

ナチュラル関西弁に チャレンジ。

 

一か所だけ ? というのは あったものの

桃象が聴いても 違和感のない 関西弁で

この日のお芝居 やってのけました。

 

藤乃かな アッパレ!!


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