梅川忠兵衛
飛脚問屋の若旦那亀屋忠兵衛は
新町槌屋の遊女の梅川と互いに恋仲ですが、
忠兵衛の友人の丹波屋八右衛門が
阿波の大尽の依頼で梅川を身請けすると言い出します。
忠兵衛はなんとか自分が身請けしたいと
手付け金の五十両を打ったものの、
後金の二百五十両が工面できずに約束の日限が
過ぎてしまいました。
そうしたなか忠兵衛は得意先のお屋敷に行く途中で
揚屋 井筒屋に寄り、女将おゑんの好意で
二階の座敷に上がってひと時の逢瀬を楽しみ
ますが、梅川にはどうしてもそのことが切り出せずにいます。
さて、八右衛門が身請けの金を持って井筒屋にやって来ますが、
居合わせた治右衛門から梅川は忠兵衛に身請けさせると言われ、
その腹いせに忠兵衛の悪口を散々に並べ立てます。
あまりの悪態に忠兵衛はついに我慢出来なくなり、
思わず二階から駆け下りて八右衛門とやり合います。
ところが八右衛門のいびりには一層の弾みがつき、
金がないことをなじられた忠兵衛は悔しさのあまり、
つい無意識に懐中の小判の封印を切ってしまいます。
しかし、実はその小判はお屋敷の為替の金だったのです。
事情を聞かされた梅川は悲しみつつも忠兵衛との心中を決意し、
そうとは知らないおゑん達の祝福の中、
二人は忠兵衛の故郷新口村を目指して死出の道へと
旅立つのでした。
■
この 懐中の小判の封印を切ってしまうことから
この場面、梅忠のなかでも特に 「封印切り」として有名です。
金がないことをなじられた忠兵衛は悔しさのあまり、
懐から小判の包みを取り出し 怒りに任せて封印を切る
という形で 行われることもあるのですが
本来、この場面
忠兵衛は 本当は 封印を切るつもりはなく
あくまで 金はあるぞ・・と 見せるために
蔵屋敷に届けるはずの三百両を懐から取り出そうとする。
だが手荒く扱ったせいで金の包み紙が自ずと破れ、
小判が床に散らばった。
というのが 原作でございます。
喜ぶ一同に対して
八右衛門は「ドリャおいとま致そうか」と座を立ち帰ろうとするが、
そのとき破れた金の包み紙をそっと拾い、
表に出て行灯のあかりで包み紙を見て驚き走り去る。
という展開になりますが、
この場面の 桃象の注目点は
八右衛門が どう出ていくか
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破れた包紙を手にして
それが「蔵屋敷に届けるはずの金」
であったと 八右衛門は 理解をし、
それを証拠品として これは大変だと
番所に届けるから 梅川忠兵衛は
追われる身になるんですよ。
大衆演劇の場合
「破れた金の包み紙をそっと拾い」
これを やっていない劇団も多いのですが
この場面で 八右衛門が
「破れた金の包み紙をそっと拾い」
をするかしないか かなり重要なんです。