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Channel: 桃象の観劇書付
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劇団花吹雪+藤乃かな お梶藤十郎 ⑥

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第七場 大詰   茶屋宗清の奥座敷

楽屋でのことが気になった 藤十郎、
宗清の奥座敷 離れに来てみると・・・


ラストは
藤乃かな の 感性が光る 結末で 幕を閉じます。



菊池寛 原作の 脚本の 最後は・・・

万太夫座の舞台の下 奈落で 自害をする お梶

役者達が 女の死体があると聞いて 駆けつけてきた
 

千寿 (同じく不思議そうに)女の自害! はて女の自害! 

藤十郎 (思い当ることあるごとく、やや蒼白になりながら黙っている)……。

(道具方楽屋番など、お梶の死体を担いで来る。口々に「宗清のお内儀じゃ」という)

千寿 (おどろいて駆け寄りながら)なに! 宗清のお内儀! (ふと気が付いたように、藤十郎の方を振り返る)……。

藤十郎 (千寿の振り返った目を避くるように、目をそらしている)……。

弥五七 いかにも宗清のお内儀じゃ。短刀で胸の下をたった一突きじゃ。

四郎五郎 今ここで話して行かれたのに、瞬く間の最期じゃ。藤十郎様、御覧なされませ、いかな子細かは分かりませぬが、女子には希な見事な最期じゃ。

藤十郎 (引き付けられたように、歩み寄りながら、じっと死顔に見入る。言葉なし)……。

若太夫 (息せきながら、駆け込んで来る)何事じゃ。何事じゃ。なに女の自害! やあ宗清のお内儀じゃ。いかな子細かも知らぬが、なにも万太夫座の楽屋で、自害せいでもよいのを。

千寿 ほんに、楽屋に死にに来ないでも。(ふと、藤十郎の顔を見て黙る)……。

弥五七 こんな不吉なことが、世間に知れると、せっかく湧き立った狂言の人気に、傷が付かぬものでもない。

若太夫 ほんにそれが心配じゃ。皆様、他言は無用にして下されませ。

藤十郎 (黙って死骸を見詰めていたが、急に気を変えて)なんの心配なことがあるものか。藤十郎の芸の人気が女子一人の命などで傷つけられてよいものか。(千寿の手を取りながら)さあ、千寿どの舞台じゃ。

千寿 (真実の女のごとくやさしく)あいのう。

藤十郎 (つかつかと舞台の上へ急いだが、また引返して死体を一目見、ついに思い決したるごとく、退場す。同時に幕の開く拍子木の音が聞えて静かに幕が下る)



簡単に 書くと

お梶の死体を見ても 動じることなく
「藤十郎の芸の人気が女子一人の命などで傷つけられてよいものか。」
と、舞台に あがった。

という 菊池寛の結末です

これを 

坂田藤十郎は 芸のためならなんでもする
歌舞伎に命を賭けた 冷たい男

という理解をする人もいる゙でしょうし

実際 このお芝居を 

そういう 坂田藤十郎 だと 演じるところもあります

が、 

原作を いくら読んでも
藤十郎の本心が 本当に 偽りの恋であったかどうか
は 記載されていない。

本当に 若い時から お梶のことを思っており
新狂言という きっかけがあり その想いを告白した
だが 歌舞伎役者という明晰もある 

楽屋では 芸の工夫のためだと 説明する

当然のことだ  

私は 人妻に惚れてます

そんな バカなことを 
あからさまにする者がどこにいる

そして お梶が死んだ悲しみを胸のうちにしまいこみ
都万太夫座では ふるまい

役者人に徹して 舞台に上がった

という理解が 原作でもできるのでございます
   


表面上のことだけ とらえるのではなく
その 内面は どうであったか・・

 

それを 藤乃かなは描いてみせます

 

 

茶屋宗清の奥座敷で

 

藤十郎は お梶の自害の場に遭遇します

 

都万太夫座という場では ああいうしかなかった藤十郎だが

心からお梶に恋していたことを告げ 詫びます

 

意識が遠のきながらも お梶は その言葉を聞いて

ほほえみます

 

そして 

 

藤十郎の芸のためならば 女の一人の命など

なんの影響もない と おっしゃってください。

 

そして  冥途への土産として

二人で連れ舞った 藤十郎の その姿を

今一度見せてください、と・・

 

藤十郎は  お梶のリクエストに 涙をためながら舞う

 

その舞を しあわせそうに観ながら

お梶は こと切れるのでございます


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