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Channel: 桃象の観劇書付
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劇団都 10/23 舞踊⑬ 木川劇場

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お登世、廊下の奥から何も知らずにくる、後におふみが付いている。

 

忠太郎 よく似ているなあ。

 

 

お登世 だあれ、あの人。

おッかさんに似てやしない。

おふみ そうでしたね。

 

 

お登世 あ、おッかさん。今の男の人だあれ。

おはま お前、見たのかい。

お登世 ええ。ちょいと似てた。ねえおふみ。

おふみ ええ。

お登世 どうしたの厭なおッかさんね。

      おッかさん、おッかさんてば。

 

おはま あい、あいよ。

 

お登世 あの人。いつかもおッかさんが話していた人じゃない。

忠太郎兄さんじゃないの。

でも、忠太郎さんは九ツで死んだっていうから、

そんな筈がないんだけれど。

 

 

お登世 あ、矢張り兄さん。忠太郎兄さんだったの。

兄さんだ兄さんだ。おッかさん、兄さんなら何故帰したの、

何故帰しちゃったの。

 

 

おはま か、堪忍おし。おッかさんは薄情だったんだよ。

生れたときから一刻だって、放れたことのないお前ばかり可愛くて、

三十年近くも別れていた忠太郎には、どうしてだか情がうつらない。

 

お登世 厭。厭。おんなじおッかさんの子じゃありませんか。

 

おはま だから堪忍おしとあやまってるんだよ。

あたしは男勝りといわれ、自分でもそう思っていたが、

これが何で男勝りか、我ながら情ない気になっていたんだ。

 

 

お登世 おふみ、急いで兄さんを呼んであげて、ね、ね。

 

おはま お前の心に対してもおッかさんは恥かしい。

思いがけない死んだとばかり思っていた忠太郎が

名乗って来たので、始めの内はかたりだと思って用心し、

中頃は家の身代しんだいに眼をつけて来たと疑いが起り、

終いには――終いにはお前の行く末に邪魔になると思い込んで、

突ッぱねて帰してやったんだが――

お登世や、あたしゃお前の親だけれど、忠太郎にも親なんだ、

二人ともおんなじに可愛い筈なのに

何故、何故お前ばかりが可愛いのだろう。

 

お登世 家の身代なんか、兄さんにあげたっていいじゃないの、

あたしは赤ン坊の時から可愛がられて来たのに、

兄さんは屹とそうじゃなかったんでしょう。

 

おふみ もう駄目なんでした。下

足さんや出前さんに駆けて行って貰ったのですけれど。

 

おはま そうかい、いいよ。

今度は此方から忠太郎を探し出して、どんなことをしても、

もう一度母子三人で会わなくちゃならない、

おふみ、かしらのところへ、だれか大急ぎで呼びにやっておくれ。

 

おふみ はい。

 

お登世 あたし、みんなを指図して、

もう一度兄さんを探させて見ます。

 

善三郎 おかみさん。

おはま 板前さんか。何。

善三郎 ご免なさいまし。さッきの野郎のことなんですが。

おはま あッ、見付かったの。

 

善三郎 ヘッ、先刻さっきの奴ですか。まだ、見付かりゃしませんが。

ご安心なさいましうまいことになりました。

悪い野郎ですけどこんな時の役には立つ

素盲の金五郎が、またやって来ましてね、

この一件を小耳にはさむと、止めるをかずに飛び出しましたが、

此方が頼んだ訳ではなし、金五郎が勝手に買って出たのですから、

おかみさんは高見で見物していれば後腐あとくされなく片付きます。

後腐れといえば金五郎の方だが、

此奴はあッしの親分に口をきいて貰い、五両か十両で片付けます。

 

おはま えッ。どうしようというのだい。

忠太郎を見付けて一体どう――。

 

善三郎 そんなかたりは腕か脛の一本も叩き折り、

二度と夜迷い言をいってこねえようにすると云ってましたが。

 

おはま そ、そんなこと、いけないいけない。

おはま お登世や、忠太郎が。

駕籠はまだかい。板前さん――駕籠はまだかい。


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